■ 第30回(2010.03.04):体温の通った会話とは?~行きつけのクリーニング店 編~
ビジネスコーチの橋場 剛です。
自宅近くに、50歳くらいの店長さんと50歳くらいの
2名の常勤スタッフさん、そして数名のアルバイトさんたちが働く
こぢんまりとしたクリーニング屋さんがあります。
そこは私がいつも利用しているクリーニング屋さんで、
土日はいつも混雑しており、きまって行列ができています。
そしてそのクリーニング屋の店員さんに
いくつか驚かされていることがあります。
それは、クリーニング屋さんの店長さんと2名の常勤スタッフさんが
私の4ケタの会員番号と名前を完璧に覚えてくれていることです。
私はお店にとっては大勢のお客の1人にすぎないにもかかわらず
やはり店員さんに顔と名前を覚えてもらっているというのは
とても嬉しいことです。
このクリーニング屋さんはお客を4ケタの会員番号で管理しているので、
原則として入店時には「会員証」の提示が必要になります。
ところが、私の場合はラッキーなことに店員さんたちが
会員番号と私の名前を覚えてくれているので、会員証
をいちいち提示する必要がありません。
店員さん「あ、ハシバさん、こんにちはー。
ワイシャツ、1日早く出来上がってますよー!」
私「ありがとうございます~。すごく助かります~」
お店でのやり取りはいつもこんな感じです。
店員さんは私に話しかけながらも、すでに私の4ケタの会員番号を
片手でカタカタとレジに打ち込んでいます。
ある日、私は店員さんに質問してみました。
「お店のお客さんって千人以上はいらっしゃると思うんですけど、
すべてのお客さんのお名前と会員番号を
覚えていらっしゃるんですか?」
店員さんの答えはこうでした。
「いえ、さすがに全員は覚えられないんですよー。
覚えられる人と覚えられない人がいるんですよね」
私の頭の中では、
「覚えられる人と覚えられない人とでは、一体何が違うのか?」
という疑問が一瞬頭に浮かびましたが、
店員さんに質問することはなんだか野暮な感じがしたため、
まずは自分自身の身に置き換えて考えてみることにしました。
私はこれまで管理職研修やスクールで
実に多くの方々との出会いに恵まれてきました。
参加してくださった方々の顔を思い起こしてみると
確かに、名前(フルネーム)だけでなく
その人の出身地や仕事内容、趣味まで自然と覚えてしまった人もいれば、
一方では顔と名字を思い出すのが精いっぱいという方も
いらっしゃいます。
よく覚えている人との関係を冷静に振り返ると、
一言で言えば、その人との間に「いい感じ」の空気が
流れているように思います。
一方で、あまりよく覚えていない人との関係を振り返ると、
一言で言えば、その人との間によくも悪くも
「ビジネスライク」な空気が流れているように思います。
少し相手との間に気持ちの壁がある感じです。
私がクリーニング屋さんとの対話を通じて興味を持ったことは
店員さんと「いい感じ」になる場合と、
「いい感じ」になれない場合とでは
そこまでに至るプロセスにどんな違いがあるのか?
ということでした。
まれに誰とでも「いい感じ」なれる器用なタイプの方も
いらっしゃいますが、
私はどちらかというとその逆で不器用なタイプです。
だから、たとえよく行くお店であっても
「いい感じ」の関係を築ける場合とそうでない場合とがあります。
そして、私が利用しているクリーニング屋さんが
私に関して覚えてくれているのは、
実は私の会員番号と名前だけではありません。
なんと私のサービスに関する希望も完璧に覚えてくれています。
例えば、
■ワイシャツは「吊るし」ではなく「たたみ」を希望していること
■できるだけ「急ぎ」の仕上げを希望していること
■クリーニングされたワイシャツはビニール袋に入れないでほしいこと
(→袋の節約によるエコ活動の一環です)
といったことです。
最近特に嬉しかったのは、入店間もないアルバイトさんの1人も
「ハシバさんは袋に入れなくていいんでしたよね!」
と私の希望を覚えてくれていたことです。
店長さんや常勤の女性スタッフさんというよい手本があったからこそだと
思いました。
私はつい嬉しくなって
「覚えていてくださってありがとうございます!」
と自然に御礼の言葉が出ていました。
ここまでくると客の私と店員さんとの関係は
かなり「いい感じ」です。
「いい感じ」は少しずつプラスの副次的効果をもたらします。
ある日、いつものようにクリーニング屋に入ると
50歳前後の白髪混じりの男性が、
1人の女性の常勤スタッフさんに向かって激しい口調で
怒鳴りつけていました。
「きょうが仕上がり日だろっ!
なんでまだできていないんだよっ!
きょう受け取れないとこっちは困るんだよ!!
すぐに工場に電話してくれよ!」
そのスタッフさんは
「申し訳ございません・・・
工場にはさきほど確認してみたのですが
手違いがあり、今日中の仕上がりはどうしても無理なようです」
とただただ平謝りです。
陽はすっかり沈み、閉店間際の出来事でした。
私はなんだか気まずい思いにかられながらも
女性スタッフとクレームをぶつける男性との
やり取りを黙って傍から見ていました。
その後もしばらくその男性の怒りは続き、
結局5分間くらい不満をぶちまけて怒鳴り続けた後、
ようやくその男性は諦めて店を出て行きました。
「あんなキツい言い方はないですよねー」
と私が店員さんに言うと、
「たまにいるんですよ、私は全然平気ですから」
と気丈に答えた彼女はまた平然と仕事に戻っていました。
緊張が解けたのか、彼女はさきほどの男性との間で起きた
行き違いの経緯とさきほどのお客様を怒らせてしまった
今の正直な想いを訥々と語り始め、
私は黙って耳を傾けていました。
「ああ、すみませんね。すっかり話を聞いてもらっちゃって。
そういえば、ハシバさん、今度の土日の夕方は
きっとお店が混雑すると思います。だから、もしも
お店に来られるなら午前中の方がいいですよ」
とやや唐突ではありましたが
「お店の混雑予報」を私に教えてくれました。
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以上はちょっとした日常の1シーンを切り取ったものですが、
私なりに感じるところがありました。
店員さんが
お客の名前を覚えてくれていること、
お客の会員番号を覚えてくれていること、
お客のサービスに関する希望を覚えてくれていること、
お客にお店の混雑予報情報をさりげなく教えてくれたこと、
お客に感謝の気持ちを伝えてくれること、
お客にちょっとした気遣いをしてくれること。
客の私も
店員さんの名前を覚えていること、
店員さんを自然にほめられること、
店員さんの話に耳を傾けられること、
店員さんに感謝の気持ちを伝えられること。
どれも大したことではないかもしれません。
けれどもする方も、される方も、
体温の通った行為のように思います。
これらの行為には何かの計算があったり、
見返りを求めてしたことではありません。
「いい感じ」になりたいと思って行われたわけでもありません。
きっと少しずつの対話の積み重ねが
店員さんと客である私との間に「いい感じ」をつくり、
その「いい感じ」が自然に店員さんと客の私に
上記のような行動をさせたように思います。
プライベートでも仕事でも
1つの「いい感じ」は別のもう1つの「いい感じ」を生み出します。
充実した時間、楽しい時間が流れるとき、
そこには必ずと言っていいほど周囲との「いい感じ」があります。
それは「信頼関係」というほど
大袈裟なものである必要はないかもしれません。
読者のみなさんには
いま身近に「いい感じ」がどれくらいあるでしょうか。
もしも「いい感じ」が少しでも足りない感じられるとしたら、
「いい感じ」になるためのたった1つの行動を起こしてみるということが
急がば回れで、成果につながる第1歩となるかもしれません。





