■ 第25回(2009.09.10):やり切るからこそ、得られるもの
ビジネスコーチの橋場 剛です。
みなさんは、つらいときや苦しいときに
自分のマイナスの感情を和らげるために
もしくは自分を勇気づけるために
決まって自分に言い聞かせていることや
思い出す光景はあるでしょうか?
自己暗示、といってもいいかもしれません。
私自身、思うように仕事が進まなくて悩んだり、
体調がすぐれずに苦しんだり、
そういうことが年に何度かは必ずあります。
個人でも組織においても
踏ん張りどころの正念場を迎えたときや
ここ一番の大勝負を迎えた時に
1つのキーワードになるのが「あの過去」です。
私は学生時代に6年間、陸上競技に取り組んでいました。
種目は400メートルと400メートルハードルです。
400メートルは瞬発力と持久力の両方が求められるため
陸上競技の中でも体力的・精神的に最もつらい
と言われている種目の1つです。
陸上競技場の1周をほぼ全速力で走るため、
300メートルを過ぎると酸欠状態になって体内に乳酸がたまります。
陸上競技の世界では「尻(ケツ)割れ」と言われるのですが、
最後100メートルはお尻の筋肉が猛烈に痛くなり、
足が思うように上がらなくなって、もう最後はヘロヘロ、
そして「気合いあるのみ!」の実にド根性な世界です(笑)。
社会人になってから、つらいことや苦しいことがあるたびに
なぜか私がいつも思い出すシーンがあります。
それはレース本番のシーンではなく、辛かった練習のことです。
400メートルの選手ですから、練習では敢えてそれ以上の距離を
何本も走って体を鍛えます。
中でも仲間全員が最も嫌いで憂鬱だった練習メニューが
3泊4日の春合宿の3日目の最後に必ず行う「魔のトレーニング」でした。
それは、500メートル走 × 3本!
インターバルは約20分です。
つまり1本走り終えてから20分後に
2本目を走り、その20分後に3本目を走るトレーニングです。
もちろん全速力で。
なんとか500メートルを3本完走すると、肩でゼイゼイと呼吸をし、
グラウンドにしゃがみこみ、そしてバタッと倒れてこんでしまう、
私をはじめ、走り終えた仲間たちはいつもそんな状態でした。
これは猛烈にきつい練習でした。
なにせこのトレーニングの前にはさんざん別のトレーニングを
やってきています。
3日分の疲労が蓄積し、もう体じゅうが筋肉痛の状態なのですが
この500メートル×3本に臨まなければなりません。
そして監督の先生からは決まってこう言われるわけです。
「練習で頑張れば、本番の試合で楽になるから!」
「お前たち、まだまだ行けるって!最後までガンバレ!」
あれからもう20年。
監督のこの言葉はいまでも私の心に強く印象に残っている言葉です。
この「錬習で頑張れば、本番の試合で楽になるから」というフレーズが
自分に負けそうになる局面でいつも最後まで
私のモチベーションを支えてくれました。
大抵のことは
「あのときの500メートルの練習の辛さに比べりゃ、
どうってことないナ」。
そう思って乗り切ってきました。
厳しい練習を乗り切った経験が、
測り知れないほどの自信になっていたわけです。
昨年、私が研修講師を務めることになっていた研修当日の朝に
39度近い熱が出たことがありました。
この時は、もう逃げ出したくなり、泣き出したい思いでしたが、
どうしても私が行わなければならない研修で、
他の講師に頼るわけにはいきませんでした。
この時にもやはりこの500メートルのトレーニングのことを
なぜか思い出しました。
「500メートルの練習の辛さにくらべりゃ・・・」
という声がどこからともなく聞こえ、あの合宿の情景が浮かびました。
ちなみにこの日の研修は13時からだったので
午前中に病院へ駆け込み、点滴を打って熱を下げ、
なんとかこの日1日の研修は乗り切りました。
実態はフラフラでしたが、
熱があったことはもちろん先方には隠していました。
先方に気を遣わせないために敢えていつもより元気いっぱいな感じに
振る舞ったのがよかったのか、
おかげさまで数ヶ月後にはまた追加でお仕事の依頼をいただくことが
できました。
なにより高熱を克服して仕事を完遂できた、という経験が
また私の中に「成せば成る」という
ある種の「自信」という目には見えない貯蓄を増やしてくれました。
「過去を味方につける効用」は実は
仕事や組織にも当てはめることができます。
私の仕事の場合であれば、
研修やコンサルティングを行うのが「試合本番」、
そのために入念な計画や準備をするのが「練習」に当たります。
十分な練習が、私を支えてくれる「あの過去」です。
また組織における「あの過去」とは
「成功事例・ノウハウの有効活用」です。
管理職研修を行うと、多くのマネージャーたちが口にする
最大の課題の1つが
「組織が、仕組みではなく、属人的なスキルに頼っている」
という状態です。
その解決のために、
私はいまある企業のノウハウの集約化と有効活用を促進するための
プロジェクトに参加しています。
「1度きりの成功」で終わらせないために。
そして「偶然を必然」に変えるために。
いつでも通常以上のパフォーマンスを発揮できる
ごく一部の「天才」を除けば
通常は「練習 > 本番」です。
つまり通常、「本番」では「練習」でできたことを
100%は発揮できないということです。
組織における成功事例やノウハウも同じで、
意識しなければ「1回限りの成功」で終わりがちですが、
ほんの少しの意識と実践で「再現可能な価値ある智恵」に変わります。
女子マラソンの高橋尚子選手が
2000年にシドニー五輪で金メダルを取った翌年の
2001年9月、ベルリンマラソンで当時の世界最高記録を
マークしました。
そのレース開始前に彼女がその心境を詠んだ歌があります。
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いままでに
いったいどれだけ走ったか
残すはたった42キロ
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本番までのすさまじい練習量が、高橋選手にゆるぎない自信を
もたらしたのではないかと思います。
メルマガ読者のみなさんにとって
あなたの背中を押してくれる、あるいは
逃げ出したくなる瞬間にあなたを思いとどまらせる
「あの過去」を味方につければ、
目に見えない自信という名の貯蓄がまた少し
内なる自分の中に増えていくのではないかと思います。




