■ 第23回(2009.07.09):人を傷つけるコメントするリーダーに効く4つの言葉
ビジネスコーチの橋場 剛です。
いま、ある外資系企業のマネージャーAさん(男性)に対して
1対1のエグゼクティブコーチングを行っています。
このエグゼクティブコーチングでは彼以外の
ステークホルダー(利害関係者)4名の方々から協力を得ています。
4名とは、彼の上司、同僚、部下の方々です。
ステークホルダーの方々に協力を得る理由は
今回のコーチングの目的が単なる彼個人の目標達成ではなく
彼の行動変革が目的となっているためです。
もう少し具体的に言うとクライアント本人を周囲がどう思っているかを聞き、
周囲のクライアント本人に対する見方を変えることをテーマに
エグゼクティブコーチングを行います。
いま組織のモチベーションや
組織力を著しく低下させている要因の1つとして
「周囲に悪影響を及ぼすリーダーの言動」があります。
エグゼクティブ開発の第一人者であるマーシャル・ゴールドスミス氏が
提唱する「20の悪癖」は大きく2つに大別されます。
1つは「能動的な悪癖」、もう1つは「不作為の悪癖」です。
「能動的な悪癖」というのは
■人を傷つける破壊的なコメントをする
■腹を立てているときに話す
■「私はこうなんだ」と言い過ぎる
といったように、自ら相手に対して働きかけ、
自ら相手に対して関わる言動によって
相手に悪影響を及ぼす行為です。
「不作為の悪癖」というのは
■情報を教えない
■きちんと他人を認めない
■人の話を聞かない
などのように「~しない」という言葉で表現され、
その言動を取らないことにより相手に悪影響を及ぼす行為です。
言動に問題のあるリーダーは
「能動的な悪癖」がどのくらい相手を傷つけているか、
またはどのくらい相手のモチベーションを下げるかについて
自身では残念ながら気づくことができません。
また「不作為の悪癖」については
「どのようなコミュニケーション方法を取ることがが効果的なのか」
についてそもそも本人が理解していない
ということが往々にして見受けられます。
例えば
「いつ、誰に、どのような情報を教えればよいのか」
「認めるためには“ほめる”以外にどんな行動があるのか」
「どうすれば人の話を聞いたことになるのか」
といったことがよく分からないといった具合です。
「能動的な悪癖」については
「なぜ、その行為が周囲に悪影響を及ぼすのか」について
本人が十分に理解するまでじっくりと対話を重ねる必要があります。
一方「不作為の悪癖」については
具体的にどのような行為やコミュニケーションが
その人に求められているのか
という一定のティーチングが不可欠になります。
例えばAさんの場合は、「認める」という行為がそもそも
どのようなコミュニケーションを指すのかが
あまり理解されていませんでした。
経営者、リーダー、マネージャーのポジションにある人ならば
「認める」という行為が具体的に周囲に対して何をすることなのか、
少なくとも瞬時に20項目くらいは挙げていただきたいところです。
「認める」行為として「ほめる」くらいしか思い浮かばないリーダーは
直ちにヒューマンスキルを磨く必要があります。
人間は、他人の視点から自分を眺めることができなければ
人間的に成長することができません。
自分の悪い癖に気づくのも、嫌な性格を直すのも、
「他人の目から見たら、私のこういう部分は嫌われるだろうな」
と気づいて、はじめて修正が可能になります。
この「能動的な悪癖」と「不作為の悪癖」で
より周囲にとって深刻なのは、前者の「能動的な悪癖」です。
リーダー自身が
「自分は、人を傷つける破壊的なコメントをしてしまうことがあるな」とか
「自分は、腹を立てているときに話してしまうことがあるな」
などと気づいたとしても、
そうした自分の言動が、どれだけ相手を傷つけているかを
心の底から理解できなければ
そのリーダーの行動が変わることは決してありません。
経営学者のピーター・ドラッカー氏は
「仕事の目的は、成果を創り出すこと、働く目的は喜びを創り出すこと」
と述べていますが、
仕事(職場)はもはや単に成果を上げるためだけのものではなく
「このリーダーの下で仕事をすると楽しい」とか
「このリーダーと共に仕事をすれば人間的に成長できる」とか
「このリーダーは自分を指導し、自分のことを大事にしてくれる」
といった環境 ― つまり職場が承認の欲求、自己実現の欲求を満たす場
として成立していなければ
人はそのリーダーについてこない時代になったのかもしれません。
「能動的な悪癖」に効くリーダーが意識すべきスタンスとして
マーシャル・ゴールドスミス氏は4つの言葉を
我々に教えてくれています。
■Help more, Judge less.
(より多くの手助けをして、判断をしない)
※DVDサンプル映像「その1」で、4つの言葉を紹介しております。よろしければご覧ください
http://mg08.businesscoach.co.jp/dvd.html
どの分野においても周囲の信頼と尊敬を集めるリーダーは
決して「能動的な悪癖」を表面に出すことはありません。
たとえ「叱る」ことはあっても「破壊的コメント」はしません。
たとえ「腹を立てる」ことはあっても「腹を立てているときに話す」ことはしません。
たとえ「私はこうなんだ」と「思う」ことはあっても「言い過ぎる」ことはありません。
「周囲に貢献するために自分はいまどのように周囲に関わることができるのか?」
「自分の判断は本当に正しいのか?」
を常に自分自身に問いかけているからです。
先日終了したウィンブルドンテニスの試合を想像してみてください。
二人のプレーヤーがテニスをしていますが、
そこには多くの利害関係者がいます。
コートの脇にはルールに沿って公正にゲームを行っているかを
チェックする複数の審判員がいます。
スタンドには試合の勝敗の行方にドキドキワクワクし、
同時にプロアスリートとしての卓越したファインプレーを期待する
大勢の観客がいます。
更にコートの隅には
メディア・報道陣が試合の事実と感動を
臨場感を伴って世界に発信すべく
プレーヤーたちの一挙手一投足を見つめています。
一流と言われるリーダーは
常に多角的な視点で自分や自身の組織を見つめています。
多角的な視点を得るためには誰でも地道な努力を積み重ねる
必要があります。
ここで想起されるのは著名なドイツの哲学者カントの言葉です。
■「わたくしの人生における過ごし方は、これまでの生き方の
通りでよかった」(※)
「わたくし」の部分を「あなた」と読み替えてみてください。
そして、あなたの周囲の人、家族・友人・上司・同僚・部下の
方たちがあなたにその言葉を贈ってくれるシーンを
想像してみてください。
リーダーに限らず、周囲の人たちに貢献したと思える生き方をすることが
本人にとっての仕事の満足度、人生の充実度につながるのではないかと
思います。
(※)山内惟介著『学修の基本的な技法について(全訂・第3版)』参照





