■ 第20回(2009.04.16):しつけの厳しかった父から学んだ仕事への姿勢
ビジネスコーチの橋場 剛です。
先日、私の父が67歳で仕事を引退しました。
44年間、一つのホテルで勤め上げた筋金入りのホテルマンです。
終身雇用・年功序列が崩壊し、転職が当たり前の今の時代では
ずっと1つの組織で仕事を継続し、全うする人の方が
もはや珍しいのかもしれません。
父は私が幼い頃から朝6時前には家を出て会社に出勤し、
帰宅は私が寝静まった22時以降になることが多く、
土日も出勤することも少なくありませんでした。
そのため、もっぱら会うのはたまにある休みの日だけでした。
しかも海外への単身赴任の期間が長く
夏休み・冬休みに家族で父に会いに行くという形だったため、
小さい頃は父の存在がとても遠く感じられたことを
おぼろげながら覚えています。
子供に対するしつけも厳しかった影響もあるかもしれませんが、
仕事のことや日常のたわいもないことを何でもじっくり
話せるようになったのは私が30代になってからのここ数年かもしれません。
仕事一筋の道をずっと歩んできたそんな父の姿を見て
最近、企業人の究極のゴールをみたような気がしました。
それは仕事の第一線を退き、
会社を退き、
背広から社章を外し、
肩書をはずしたときのその人の「存在」「価値」についてでした。
先日の休みに父と一緒に過ごした時、
「いやぁ、連日いろんな方から送別会の声やお誘いの声を
をかけてもらっていて、会社を辞めてからも結構忙しいんだよ」
とニコニコと嬉しそうに話していた父を見て
私はとても誇りに思いました。
数年前から、私の仕事の人脈づくりのために、
時には人生の良きアドバイザーを増やす意味で
父は職場の先輩後輩の方や友人の方を
私に紹介してくれるようになりました。
また弊社のお客様から紹介していただいた方が偶然にも
父の知り合いだったということもありました。
父と付き合いがあった方々は
「お父さんは仕事熱心な人でねえ」
「職場でお父さんはよく冗談を言って周りを笑わせていたよ」
「あなたのお父さんはなかなか部下から慕われていてねえ」
などというお言葉を私にかけてくださいました。
人づてに父への温かい言葉を聞くたびに
仕事に打ち込んできた父が、
周囲の人たちをいつも大切にし、
支えてくれる方々への敬意と感謝の気持ちを持っていたことが分かり、
私自身とても温かい気持ちになりました。
(今でも恥ずかしさと照れで、父に面と向かってこういうことは
絶対に言えませんが)
今回私は、引退後の父のことを伝えたくて
このコラムを書いているわけではありません。
私が読者のみなさんにお伝えしたいことは、一言で言えば
「1つのことを実践し続けた姿の、計り知れない説得力」です。
ビジネスコーチングの目的を、私はいろいろな方に
「組織の変革の定着化や習慣化です!」などとお伝えすることがありますが
44年間の継続と実践の前では、
こうした言葉も瞬時に無力になってしまいます。
単身赴任生活が長かった父は、
節目節目に私に手紙やメールをくれることがありました。
■好きなことを見つけて、目標に向かってチャレンジする大切さ
■常に学ぶ姿勢を持ち、謙虚な姿勢を持つ大切さ
■自分が「あんな人になりたい」と思うような人になる努力をする大切さ
■周囲の役に立つ人になる大切さ
■いまの自分を支えてくれている人すべてに感謝の気持ちを持つ大切さ
■誠意を持って人に接する大切さ
父が私に伝えたかったかったことはおそらく
こんなことだったように思います。
けれども100回の言葉よりも、1000回の言葉よりも
44年間実践し続けてきた率先垂範と行動のずっしりとした重み。
父が仕事の愚痴を言っているのを私は一度たりとも聞いたことがなく、
そのことが何より「実践」を証明していると思いました。
■自分から肩書き、過去の実績、仕事を差し引いた場合に
どんな魅力が残るのか?
■自分から肩書き、過去の実績、仕事を差し引いた場合に
誰が自分に会いたいと思うのか?
■自分から肩書き、過去の実績、仕事を差し引いた場合に
何人の人が自分を他人に紹介したい人物だと思うのか?
こんな質問にすぐに答えることができるとしたら
その人はとても素敵な人生を歩んでいるかもしれません。
(私自身は結構考えてしまいました)
上司や同僚や部下やお客様をはじめ
仕事で接するすべての人に「本気」で「真摯に」向き合ってきた人は、
すべてを差し引いた後に、他の何物にも替えられない
“自分(あなた)の名前だけが付いた”誇り高い1つのブランドが
出来上がっているのではないか、
いま、そんなことをじんわりと感じています。
1つの仕事を何年も続けられるのは情熱があるから。
情熱を持てるのは、その仕事の本当の意味を体で感じているから。
その仕事に本当の意味を感じられるのは、
その仕事が世の中のため、人のためになると心から信じ切れるから。
そんなふうに思います。
『幾歴辛酸 志始堅』
西郷隆盛が幕府を倒した後に一筆書いたとされる言葉だそうです。
「何度も辛酸をなめることで、志が本物になっていくと
個人的には解釈しているんだ。
辛いことや嫌なことが原因で諦めてしまうような目標は
志としては弱いと思うんだ」
ベンチャー企業を興した私の友人が、私が30歳で会社を辞め
ビジネスコーチングの仕事をすると決意したときに
贈ってくれた言葉で、いまでも私の心に深く刻まれています。
仕事に打ち込み、真剣に仕事に向き合ってきた人だけが
仕事を通じて一生の付き合いとなる「人とのつながり・絆」を
得られるのだとすれば
それこそが企業人の究極のゴールなのかもしれません。
仕事一筋だった父も、今ではすっかり、
背広とパジャマ以外の服を着る機会が多くなり、
きょうもきっと誰かとどこかで
「自分ブランド」でのお付き合いをしています。





