現場を読む

■ 第5回(2008.08.07):家族のため?自分のため?“誰のため”に仕事をしていますか?

 ビジネスコーチの橋場 剛です。

 「あなたは、誰のために仕事をしていますか?」
 と訊かれたら、あなたはどのように答えるでしょうか?
 「何のために」ではなく、「誰のために」です。

 2008年7月21日にテレビ東京の『カンブリア宮殿』という番組で
 「人間は自分のことだけ考えるのではなく、なぜ他人のために何かをすると
 嬉しくなる動物なんでしょうか?」という司会者・村上龍氏の質問に対する
 社会企業家のサフィア・ミニー氏の答えの中に、私は彼女のリーダーたる
 ゆえん、資質を見た気がしました。
 (村上龍氏の質問に対するサフィア氏の答えは、このコラムの最後に掲載します)

 「誰のために仕事をするか?」という質問に対する回答の内容は、
 組織を率いる立場にあるエグゼクティブや次世代ビジネスリーダーの
 仕事のアウトプットと密接な関連があるように思います。

 人はいろいろな目的や対象のために仕事をしますが、
 「対象(誰のために)」に着目すると、
 おおよそ以下の5つに分類することができます。

 レベル1:「自分自身」のために仕事をする
 レベル2:「家族や身近な大切な人」のために仕事をする
 レベル3:「所属するチーム・組織」のために仕事をする
 レベル4:「顧客」のために仕事をする
 レベル5:「地域・国家・社会」のために仕事をする

 自分や周りの人がどのレベルにいるかは、その人の言動をみると分かります。

 レベル1の人は「もっと給料がほしい、スキルアップをしたい、有名になりたい」
 レベル2の人は「家族を守りたい、自分を支えてくれる身近な人の期待に応えたい」
 レベル3の人は「チーム・会社に貢献したい、チーム・会社を勝たせたい」
 レベル4の人は「顧客にいいサービスをして喜んでもらいたい、顧客に感謝されたい」
 レベル5の人は「幅広い人々に感謝されたい、多くの人の幸せに貢献したい」
 こういうフレーズを言葉として発する傾向があるように思います。

 心理学者のアブラハム・マズロー氏は有名な「欲求の五段階説」を提唱しました。
 「欲求の五段階説」になぞらえて、私は上記を
 「仕事目的の五段階説」とここでは仮に呼ぶことにします。

 会社や事業というのは、そもそもそこで上がった利益を社会に還元するために
 興されるものです。そのため、多くの起業家や創業者はほぼ例外なく
 創業当初、「レベル4」もしくは「レベル5」の高い意識や志を持っているものです。

 しかしながら時間の経過とともに、組織がどんどん成長してくると
 組織にはいろいろなバックグラウンドを持った人が集まってきて
 「レベル1」の人もいれば「レベル2」の人もいる、
 そういう状態が生まれます。

 「仕事目的の五段階説」での「レベル1」「レベル2」のような
 自分のためだけに仕事をする、有名になりたい、
 身近な人のためだけに仕事をするというのも
 決して悪いことではありませんし、誰しもそういう時期は
 あるのだと思います。

 けれども、チーム・会社にレベル1やレベル2の人ばかりがいたら
 確実にそのチーム・会社の組織力は損なわれてしまいます。

 企業の組織遂行力向上・業績向上の現場にいるとすぐに
 こういう声が聞こえてきます。

 「チーム・会社を勝たせるのは経営者・リーダーの仕事だから・・・」
 「自分は与えられた仕事をこなしていればいいんだ・・・」
 「自分にはお客様や社会に貢献するなんて無理」
 「頑張ったってどうせ給料は上がらないんだから、頑張るだけ損・・・」

 人より尖った業績を上げているいわゆる”ハイパフォーマー”は
 「仕事目的の五段階説」での「レベル3」「レベル4」「レベル5」
 の意識で仕事をすることが、結果として「レベル1」「レベル2」を
 満たすことを知っています。

 あなたがチームや組織のメンバーの一員である以上、
 あなたが経営者だろうが、
 あなたがマネージャーだろうが、
 あなたが契約社員だろうが、
 あなたが派遣社員だろうが、、
 あなたがアルバイトだろうが、
 あなたのビジネスパーソンとしてのスキルが高いとか低いとか、
 そういうことは「誰のために働くか」ということとは一切関係ありません。

 チーム・組織のメンバーが
 「どうすればもっとチームとして成果が上がるのか?(=レベル3)」
 「どうすればもっとお客様に喜んでもらえるのか?(=レベル4)」
 を考えて、そのときに自分ができることをやればいいわけです。
 その理由は単純です。

 自分がお客様の立場だったらどの意識レベルの人から
 サービスを受けたいと思うか?

 私はやはり「レベル1・2」の人よりも「レベル3~5」の人から
 サービスを受けたいと思います。

 メンバーがこの視点さえ持っていれば
 エグゼクティブや次世代ビジネスリーダーがあれこれ言わなくとも
 チームのメンバーや部下の人たちは
 自分で考えて、自分でどんどん動きます。

 弊社のクライアント企業様で業績が上がっている組織に共通することがあります。

 それは、チーム・組織のメンバーが行っている仕事が
 所属するチーム・組織にどんないい影響を及ぼしているのか?
 お客様にどんないい影響を及ぼしているのか?
 地域や社会に対してどんないい影響を及ぼしているのか?
 を経営トップやリーダーが繰り返しいろんな場面で伝えて続けていることです。

 どうすればメンバーが「レベル3~5」の意識で仕事に取り組むようになるか、
 エグゼクティブや次世代ビジネスリーダーの皆さんが
 真剣に向き合うべき重要な仕事の1つだと思います。

 最後に、冒頭でお伝えした村上龍氏の質問に対するサフィアさんの答えを
 お伝えします。
 
 「(他人のために何かをすると嬉しくなるのは)
  やっぱり人間が人間だから。
  “ラヴ”があるから。
  やる気を感じないと人のためには仕事はできない
  仕事の中身にやる気を感じることは
  給料より全然大事」

 こういう考えを持ち、自ら率先して実践するリーダーにこそ
 人はついてくるのだと思います。



■ ビジネスコーチの目

◆「誰のために?」と「価値観の共有」

 組織遂行力を高めるために
 「何のために仕事をしているか?」
 というメンバーの価値観を共有することは極めて重要です。
 社会人の多くの人は、
 「何のために仕事をするかなんて就職活動のとき以来考えたこともない!」
 という方も多いのではないでしょうか。

 「どうすれば業績が上がるか」とか
 「どうすればマーケティング戦略が成功するか」といった
 経営や営業の技術的なことについては頻繁に議論がなされますが、
 多くの組織では
 「チームのメンバーが何のために働いているのか?」
 について共有されることはほとんどありません。

 経営者やリーダーがどんなに明確なビジョンを打ち出していたとしても
 組織のメンバーは皆、働く目的や人生のゴールが異なるので、
 全員の意識・ベクトルを1つに向けるのはなかなか難しいことです。

 「何のために働いているか?」
 ということについて話し合うだけで
 「えっ?○○さんはそういう目的で仕事をしていたんだ~」とか
 「○○さんは案外、社会貢献や自己の成長への意欲が強いんだね」
 といったことに気づきます。

 お互いの価値観を理解すると
 相手への気配りができるようになり、
 仕事を任せやすくなったり、
 相手のモチベーションに意識が向けられるようになったりします。

 組織遂行力を高める現場では
 「価値観シート」を使って12の価値観の優先順位をつけていきます。
 承認、名誉、成長、信頼、安全・・・。
 なぜその価値観が大切なのか・・・。
 選択したものと選んだ理由や背景について組織の中で
 共有化することによって相互理解が深まります。

 「何のために、誰のために仕事をするのか?」

 この答えは、あなたの「心の成長度合い」によっても
 「周囲の環境」によっても変わります。
 だからこそ時折、この質問を自身に投げかけてみることが
 あなたにとって大事なことを気付かせてくれるのだと思います。

 ※「価値観リスト」の詳細は、ITmedia エグゼクティブに掲載した
  コラム「あの人と、なぜ意見が食い違うのか?」をご覧ください。
http://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/0806/16/news006.html